丁寧に扱うことで得られるものは?「ハンドウォッシュ(手洗い洗濯)」のすすめ

5月の爽やかな風が吹き初夏を肌で感じるこの季節。日差しが強い日中では、ロングスリーブのシャツを腕まくりする方や半袖で過ごしている方も頻繁に見かけます。ワードローブに入っている厚めのジャケットやセーター、冬仕様のシャツなどを一掃して、いよいよ夏物の衣類に入れ替える「衣替え」の時期がやってきました。冬物をクリーニング店に持参したり、洗濯機を使って洗濯したりする方が多いですが、最近では、あえて「ハンドウォッシュ(手洗い洗濯)」を行っている人も少なくはありません。今回は、アメリカのハンドウォッシュ事情から、なぜ手洗いで洗濯をするのか、そのメリット、さらに実際に自宅で簡単にできるハンドウォッシュの方法までご紹介します。
なぜ、あえて手洗い洗濯をするの?

これまで衣類をクリーニング店に持参したり、洗濯機を使って洗濯したりすることが一般的と思われてきましたが、最近、カリフォルニアでは衣類を「ハンドウォッシュ(手洗い洗濯)」をする人が増えています。あえて手洗い洗濯をするのはどうしてなのでしょうか?その事情とメリットを考察してみましょう。
環境を守りながら、上質なものを少しだけ持つ生活をしたい
長期間にわたって、大量生産・大量消費を行ってきたアメリカでは、オピニオンリーダーとなるミニマリストの台頭や2013年のバングラデシュ縫製工場倒壊の事故を契機に大量生産の上に大量に消費される廉価な衣料品を買い求めて使い捨てするのではなく、上質なものを少しだけ持ち、長く大切に着るという気運が高まっています。特に健康志向が高く、地球環境を守りながら、生活を豊かにする開発を進めるべきであるという考え方の「サスティナブル」なライフスタイルを目指す人が多いカリフォルニアでは、その流れが顕著に見受けられます。例えば、クリーニング店を利用した際に使用される水の量や洗剤の種類などにも警笛を鳴らす声があり、そのような声に呼応してLA(ロサンゼルス)では、より環境に優しい「エコドライクリーニング」を実施するクリーニング店も増えています。衣類のクリーニングの選択肢が増えるなかで、原点に帰り、洗濯の際に使う水も洗剤も、また洗い方に至るまで全て把握しておきたいと願う人たちは、自ら手洗い洗濯をするという理に適った方法を選んでいるのです。
地球にやさしく、お財布にもやさしい
当然のことながら、クリーニング店を利用する場合は、作業に人の手を借りることですから、その分費用がかかります。自分自身で手洗いをすれば、一般的に販売されている洗濯洗剤より割高な傾向のあるオーガニック洗剤などを使用したとしても、結果的には、廉価に洗濯を行うことができます。水を大量に使用したり、地球に悪影響の少ない洗剤を使ったりしないため、地球に優しく、お財布にもやさしいのが手洗いでの洗濯。ハンドウォッシュには、大きな経済的メリットもあるのです。
良いものを長く美しく着たい

前述したように、良いものを長く着たいという考え方は、使い捨てにせずに、きちんと手をかけて、お手入れしながら大切に衣類を扱うことです。常にクリーニング店を利用したり、洗濯機で安易にまとめて洗濯したりするのではなく、大切な衣類を一点、一点自ら時間と手をかけて洗濯して、丁寧に扱うことで、その洋服に愛着が湧き、もっと大切にしたいと思え、その洋服を長く美しく保つことができるようになります。また、プロの力を借りるつもりでクリーニング店を利用したことで、逆に大切にしていた洋服をダメにしてしまったという経験をされた方もいるのではありませんか?自ら行うハンドウォッシュならば、素材に適した洗剤を吟味することもできますし、また洗い方の工夫をすることもできるので、取り扱いに注意を要するデリケートな洋服ならば、なおさら安心できます。大量生産・大量消費の社会に疑問を抱く人たちは、ごく自然の成り行きとして、ものを大切に扱うライフスタイルへシフトしているのです。
今すぐにできる!簡単なハンドウォッシュ(手洗い洗濯)の方法

「たかがハンドウォッシュ、されどハンドウォッシュ!」といえるほど、衣類を手洗いすることはさまざまなメリットがあることが分かりました。では、さっそく実際に自宅で衣類を手洗いする方法をご紹介しましょう。コートやジャケットなどを手洗いするのは敷居が高いと思っている方でも大丈夫。特別な道具や技術も必要なく、簡単に手洗い洗濯ができることに驚くはずです。
ハンドウォッシュは手持ちのモノを利用して
<用意するもの>

- 中性洗剤
- カラーブリーチ・・・色物も漂白可能な漂白剤。
- ボールまたは洗面器・・・衣類を入れて手洗いするための容器。シンクでも代用可能です。
- ブラシまたはスポンジ・・・汚れを落とす際に使用。
- ハケ・・・毛玉を取る際に使用。
- ガムテープ・・・毛玉を取る際に使用。
今回は、中性洗剤は「ecos(エコス)」、カラーブリーチは全米のオーガニックスーパーの大手「ホールフーズ(WHOLEFOODS)」のオリジナルブランドである「365」を使用しました。日本ではインターネットで購入することも可能ですが、国産の洗剤でも同様に環境にも衣類にも優しい製品が販売されていますので、お好みのものをお使いください。
用意するものは最小限がベスト!
ダウンジャケットやウールのセーターなど冬物の衣類を洗濯する専用の洗剤なども市場では多く販売されています。そのような洗剤を使用してもいいのですが、「中性洗剤」があれば十分に手洗い洗濯はできます。中性洗剤は規定の量より少し少なめに使用するにようにしましょう。また、黄ばみやシミを取るために「カラーブリーチ」も必要です。こちらの使用は極力微量を心がけるようにするといいでしょう。汚れによっては、部分的に使ったり、中性洗剤と混ぜて漬け込んだりします。また、汚れのひどい部分には、柔らかいブラシやスポンジを使用するのもおすすめです。セーターなどについた毛玉は洗濯前にハケ&ガムテープであらかじめ除去しておきます。洗濯を終え衣類を干す際には、専用のネットを使用したり、ネットの代わりに物干しのバーやハンガーを使用したりしましょう。
用意するものが多くなればなるほど、面倒に思えてなかなか作業に取りかかれず、結局いつものようにクリーニングに出してしまう…という結果になりがち。可能な限り、用意するものはシンプルにするのがハンドウォッシュ成功の鍵です。
素材や汚れによって洗い方を選んで!
一般的にいう手洗いとは、「手もみ洗い」のこと。この洗い方は、汚れがひどい時や頑丈な繊維に最適です。その他に、ニットなどのデリケートな衣類には「押し洗い」。部分的な汚れを落とすには「たたき洗い」が適しています。ややデリケートな繊維で頑固な汚れを落とすには「浸けおき洗い」を、部分的な汚れを落とす際には「つかみ洗い」「こすり洗い」などがあり、衣類の素材や汚れ具合に応じた洗い方をしましょう。
大物衣料のダウンジャケットの手洗い
いよいよ大物衣料の代表格「ダウンジャケット」を洗ってみましょう。ダウンジャケットは「押し洗い」と「浸けおき洗い」で洗います。
ダウンジャケットを広げて、大きなゴミなどを取り除きます。ポケットの中も念入りに。
ダウンジャケットを折り畳みます。
中性洗剤(右)を適量とカラーブリーチ(左)を少量入れたぬる目の湯を張った洗面器(またはシンク)を準備します。中性洗剤は規定の量より少なめにするのがベスト。多めに入れると汚れが落ちるように思えますが、逆に繊維にダメージを与えることになります。
③に折りたたんだ状態で浸け込み、手で軽く「押し洗い」をします。
袖口やポケット口の周りなどの汚れが目立つ部分は、両手を使ってゴシゴシと「手もみ洗い」やブラシやスポンジなどを使って「こすり洗い」をします。
漬け込みが終了したら、すすいで軽く絞り、その後にバスタオルなど大判のタオルに包んで軽く押さえて水分を取ります。
ハンガーに吊るして日陰干しします。ハンガーに吊るしたら、裏と表の生地を手でつまんで空気を入れるようにしてダウンをふっくらさせて、形を整えましょう。これで手洗いが完了しました。汚れの目立つファージャケットの手洗い
袖口やポケット周りなど部分的に汚れたオフホワイトのファージャケットを洗ってみましょう。同じような素材のジャケットをお持ちではありませか?

ファージャケットを広げて、大きなゴミなどを取り除きます。ポケットの中も念入りに。
ジャケットを折りたたみ浸けおき洗いをします。中性洗剤とカラーブリーチを微量入れたぬるま湯を張った洗面器に、折り畳んだジャケットを漬けます。
汚れた部分はブラシで優しく汚れを落とします。柔らかいブラシやスポンジを使って、汚れを書き出すようにするのがポイントです。ワードローブの定番ウールカーディガンの手洗い
秋冬衣類ではワードローブの定番、ウールのカーディガン。ウールやカシミアなど毛のあるセーターは、カーディガン同様に手洗いができますのでお試しください。
カーディガンを広げて、毛玉がついているか調べましょう。
毛玉がある場合は、織り目に沿ってハケをかけて、ガムテープで毛玉をとって前処理をします。
セーターを折りたたみ、中性洗剤を適量入れて、水を張った洗面器またはシンクに浸けます。
カーディガンの全てが水に浸かるように手のひらで軽く押した後、手を離します。さらに、「押して・離して」を繰り返して、洗濯物から汚れを押し出すように洗います。
汚れが気になるところはつかみ洗いをしましょう。
ネットを使って日陰干しするのが基本ですが、ネットがない場合は、画像のように洗濯干しのバーを代用するといいでしょう。部分汚れが気になるシャツの手洗い
部分的な汚れが気になるシャツの手洗いを行っていきましょう。
シャツを広げて、大きなゴミなどを取り除きます。ポケットの中も念入りに。
シャツを折り畳み、中性洗剤を混ぜたぬるま湯に漬けます。この時、中性洗剤適量とカラーブリーチ微量を混ぜるようにしましょう。
袖口や襟などの汚れた部分を柔らかいブラシやスポンジで優しくこすりながら落とします。デリケートなブラウスの手洗い
デリケートな衣類、例えばフリル付きのシースルーブラウスなどは浸けおき洗いが基本です。
ブラウスを広げて、ゴミなどを取り除きます。フリルで生地が重なる箇所も念入りに。
中性洗剤を適量、カラーブリーチを微量混ぜた水を洗面器またはシンクに張り、折り畳んだブラウスを入れ漬け込み洗いをします。30分~1時間程度を目安に行いましょう。ものを丁寧に扱うことは自分自身を大切に扱うこと
今の季節までお世話になった洋服たちを自分の手で洗うことで、これまでどれだけ愛用していたのか実感できますね。感謝を込めて洗ったり、大切に畳んだり、丁寧に扱うことで、ものである洋服に愛おしさが生まれてきます。その愛情に応えるかのように、洋服もまた、長く美しさを保ってくれるのです。それは、ちょうど、日々時間をかけて丁寧な肌のお手入れをするのと同じといえます。たまには、エステやスパでプロの力を借りることも必要ですが、毎日丁寧に積み重ねたお手入れは、肌をより大切にしたいという気持ちを高めるばかりか、美しく若々しい肌を育みます。ひいては、肌に丁寧に向き合うことで、自分自身を大切にしている実感さえも得られることでしょう。たかが衣類のハンドウォッシュも、実は、私たち自身を愛おしむことと密接につながっているのです。当たり前の家事の一つである洗濯、クリーニング店を利用することや洗濯機に頼ることを自分自身に許しながらも、衣類を大切に扱うハンドウォッシュを上手に取り入れて、丁寧に毎日を積み重ねていきたいですね。
